2017年11月30日木曜日

今月の一本 ルクスペイン

今月はこれです。今回は微妙に感想よりというか感想込みなんで全体的にとっちらかった文章になってまして申し訳ないです(いつも通りといえばそうだけど)。難点こそあれどDSのADVの中では押さえておいて損は無い、中々の秀作と思いますにょ。人の思念をこうも中心に取り上げたタイトルはあんまり無く思えて、それでいて重いけど重くなりすぎない絶妙な物語は結構ナイスな出来です。
��____

DATA
発売 / 開発 :マーベラスエンターテイメント / キラウェア
登場時期 : 2008
ジャンル : 伝奇ジュブナイルアクションADV
機種 : DS



ルクスペインである。今作は言わずと知れていない、かといってマイナーすぎるわけでもないという何とも微妙な立ち位置の知名度の作品である。かくいう自分もどこかで「何かルクスペインというDSのADVは結構面白かった」という感想を見た気がするという雑な記憶と「音楽:伊藤賢治」の名に釣られて購入した身であり、事前情報はほとんどない状態であった。開発を務めたキラウェアに関しても今作で初めて知り、DCのカルトRPG、デスピリアスタッフが関わっていたのかと軽く驚いた限りである。
さて、今作がなぜ全く知られていないわけではないがあまり目立たない存在なのかと言うと、一つには残念ながら単純にあまり売れなかったというのがあるのだろう。もう一つには、実はこちらの方が重要なのだが、面白さが分かってくるのが遅めであること、そして面白くなってきたと同時にゲームシステムに不満を抱きやすくもなる調整にある。シナリオが上手いこと回り始めるまでに時間を要する作りであり、システム面では痒い所にイマイチ手が届いていない。しかし、シナリオが動き出した時の面白さ、そして独自の演出とDSならではの表現、絶妙な空気感は非常に味がある。
今作は手放しで絶賛出来るゲームでは無いことは確かだ。あと1ポイントどこか上手くいっていれば…と思ってしまう惜しいゲームでもあるだろう。しかし、難点こそあれど一見の価値があるゲームである。

��伝奇でジュブナイルだ!とっつきはよろしいわけではない~
今作はDSの機能を上手いこと落とし込んだ「伝奇ジュブナイルアクティブADV」である。ジャンルからして半分くらいよく分からないが、心で感じろ。伝奇でジュブナイルでアクティブなADVだ。もう少しいうならば、アドベンチャーパートをメインに進行し要所要所でタッチペンを使用したアクションが入るというものだ。主人公は他人の思念を削り覗き見ることが出来る能力者であり、タッチペンを使ってキャラクターの心を削り思念を見て、その思念に巣食う怪物を倒していき、舞台となる「如月市」にて事件の真相を追う、というものである。ジュブナイルを謳うだけあり今作には学園物の要素が存在しており学園でのキャラとのやり取りがあったりもする。学園生活を送りつつ、事件を追うというのが主な流れだ。
いきなりだが今作の第一印象は悪い!始めた当初の何も知らないプレイヤーに対して配慮もせずにすっ飛んでいくシナリオがまず襲い掛かる。固有名詞のオンパレードや(一応データベース的な場所で用語確認は可能)、いきなりのキャラ大量登場に加えて駆け足気味の自己紹介と「何だ!」というより「なにこれ?大丈夫か?」と思う印象の悪さである。
そしてゲームを進めていくと今度はシステム面での難にぶつかることになる。セーブは3つのみ、説明書を読まなければセーブできる箇所は章が終わったときのみと勘違いしてしまうような構造、バックログ無し、オートスキップ無しとADVとして「これでいいのか?」と思わざるを得ない。確かに真剣にシナリオ読んでほしいという配慮にも感じられるといえばそうなのだが……。
さらに戦闘パートがどうにもかったるく思えてしまう出来。序盤は物珍しさからある程度楽しくプレイできるが、戦闘の機会が増える終盤は面倒に思えてしまう。戦闘はタッチペンを酷使するので画面にもイマイチ優しくないのも気になる人は気になるか。
とどめに早い段階できっちりフラグを立てないとゲームオーバー一直線になり、最悪の場合詰みかねない箇所が存在している。この箇所以外は詰まるところも特に存在していないため、余計にこの箇所が苦しく思えてしまう。
全体的にプレイヤーへの配慮が欠けており、キャラの個性が分かってきてシナリオにのめり込めるまではかなり苦しいゲームにも思えてしまうのが難だ。特に導入~序盤に関してはかなりやらかしている印象があり(この箇所の最後の方で先のゲームオーバーの問題が出てくる)この場面で投げてしまう人もいるかもしれないし、この場面ではその面白さがまだ秘められた状態なのでどうにも分かりにくい点もある。ここさえもう少しどうにかなっていたら…と思って止まない。

��ルクスペインの魅力は物語だ!~
ここまでは主に批判的なことを書いてきたが、このゲームの魅力を挙げるならば、ストーリー、キャラクター、演出に尽きるだろう。
まずはストーリー。人間の精神に寄生し負の感情を増幅させる「サイレント」、そのサイレントに対抗する組織「フォート」に所属する主人公西条アツキは、サイレント感染による集団自殺事件のオリジナルサイレントが如月市にいることが判明しそこへ転校生として潜入捜査行うことになる。発生する怪事件、様々な人との出会い、時には永遠の別れ、そして人の心、精神を削り覗き垣間見て、この街では何が起こっているのか?事件の真相は?…ということを追うのが基本的なシナリオの流れである。サイレントは負の感情を増幅させながら精神を喰らっていくためサイレントに感染した者の思念の内容は基本的に暗く重い。「殺す」「死」などの単語が平然と飛び交い、それでいて言葉の表現を変えながら何度も登場する。一見普通そうに見える人やどこにでも居そうな人が次第に壊れていく、あるいは凄まじい狂気を隠し持っているということがこれでもかと言うほどに表現されている。DSらしくない少々ダークな雰囲気の作品と言えるだろう。ただジュブナイルなだけあり重すぎることはなく絶妙なバランスを保っている。
シナリオが中盤に入るまでは面白みが見えにくいが、中盤に入ってしまえばこれまでの描写の積み重ねが生かされてグイグイとそのストーリーも引き込まれる。序盤はまだキャラのことを分かっていないので思念を読み取っても「へー」程度にしか思わないのだが、どんなキャラかが分かってきたときには思念を読んでいく面白さは相当のものでなおかつ今作独自のもの。また、思念に巣食うサイレントの影響やそれ以外の要因(単純に人間関係とか)により外見上は普通でも思念に狂気や混乱、不安などが入り混じっているのが面白く、そして少し重い。日常が少しずつ壊れていくという描写も良く、思いもよらぬ人物の死や数々の謎の出現もあり、シナリオが回り始めたらもう止まらない。破壊力は凄まじいものだ。淡々としている部分はあることにはあるが、その先が気になり読み進めてしまう面白さが今作には確かにある。
次にキャラクターが非常に良い。各キャラクターに与えられた役割に違和感を覚えることはなくすんなりと頭の中に入ってくる。主人公が所属するサイレントの排除を目的とする機関「フォート」のメンバーと主人公が所属することになる「如月学園」のクラスメイト、同じく特殊能力を持った人々、教師たちといった主要キャラに加えてネカフェの店員から市民会館のおばはん、ゲーセンの店員などの如月市に存在するキャラと登場人物は極めて多いが誰もが魅力的であり中には強烈なインパクトを残す者もいる。彼らの心の奥底にある悩みや狂気の思念を見てそれを解決していくことが面白くある。日常の中に潜むサイレントの影、非日常の部分の書き分けや見せ方が非常に上手く、演出の良さもあり自然にキャラに愛着を持つだろう。だからこそ死亡フラグが立たんとしているキャラに対して「止めてくれー!」だの、死んでしまったキャラに対して「ほんとかよ!?ウソだろ……」と感情移入しストーリーに没頭してしまう。キャラ描写に時間をかけすぎなきらいこそ確かにあるものの中盤からの盛り上がりは時間をかけただけの結果が確かに出ていると思うほどだ。
また主人公のゲームにおける立ち位置も結構上手い。作中で個として存在していながら同時にプレイヤーとシンクロしてポジションを確立させているのが面白い。プレイヤーは主人公の目を通して人物と出会っていくのだが、主人公が感じたことがプレイヤーとも重なるようなものになっている。主人公のキャラとしてはクールでぼそぼそとしゃべり妙に気恥ずかしくなるような言い回しばかりするクセあり目なキャラになっているにも関わらず、ストーリー上ではプレイヤーは驚くほどに主人公とシンクロするようになっているのだ。そのためキャラのセリフがプレイヤーにも突き刺さるようになっている。プレイヤーとプレイヤーが操作する主人公との間に差が生じてしまうのがゲームのストーリーでのよくある問題点だが、今作はその辺のところを中々上手く切り抜けた作品だと言える(そうはいってもやはりクセの強いキャラだし喋ったり喋らなかったりとするので気になる人は気になるかもしれないが
そして演出。この演出を見るためだけに今作を買うべき価値があると断言しよう。今作はDSならではの作品であるのだが、なぜそうなのかと言えばタッチペンを使っての思念の削り取りや戦闘というアクションの側面もあるが、2画面であることが非常に効果的に生かされて演出になっていることにあるだろう。今作の下画面は通常のADVらしい画面だが、上画面には精神世界とも言うべきものが表示されており下画面に表示されている絵がモノトーン調の色合いでもやもやっと表示されている。そして主人公は思念が見れる能力者。選択肢を選んだ時にキャラの感情のようなものが上画面にもやもやっと現れるのだ。怒りの思念や恐れの思念だけでなく喜びの思念なんかも上がったり、時には下がったりしてくる。設定を反映した上手い作りだ。
そして真に必見なのが実際に思念を削り取りその中身を見る場面である。画面中を文字が浮かんでは消え、バラバラになり、画面中を文字で埋め尽くし、文字が飛び交うような様はまさに圧巻。単純に映像面だけを見ても非常にカッコよく、それでいて重い思念は本当に怖い。これを見たいがために能力を使ってしまうこと間違いない。こればかりはゲームで見なければその凄みは分からない。また画像で見てもその凄さは分からないだろう。ゲームならではの演出だ。こうした演出が効果的に働きストーリーの没頭感をこれでもかと高めてくれる。
また演出を支えるのが音楽の良さ。イトケンさんに加えて鈴木康行さん(ソルダム、怒りの要塞などが有名か)も作曲を担当。温かみを感じさせる日常系の楽曲からサイコサスペンスにピッタリなシリアスな楽曲まで様々な楽曲がそろっておりストーリーと演出をしっかりと彩ってくれている。特に思念を覗き見ている際に流れるBGMはどれも非常に印象的であり文字が飛び交う演出をさらに強めてくれる。
確かに看破出来ない問題点は多く課題がある作品であるところは否定しない。しかしその独自の演出と丁寧なキャラクター描写、それらを存分に活かしたストーリーは一見の価値がある。DSならではのADVがここにある、と言わんばかりのルクスペイン、興味と機会があったら是非ともプレイしていただきたいものである。




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