2017年2月8日水曜日

今月の一本 株トレーダー瞬

今月はとりあえずこれで行ってみましょうか。それにしても……この文章開発者の人が読んだら怒りそうだよなあ……。もう色々と申し訳ないデス。
ちなみに今回は題材が題材なだけに株用語が割と出てきます。風説の流布(意図的に株価を操作する目的で虚偽の情報を流す、違法行為)が分かればたぶん問題ないっす。俺も株用語完全に理解してるわけじゃないし。
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DATA
発売 / 開発 :カプコン / インティ・クリエイツ
登場時期 : 2007
ジャンル : ドラマチック株アドベンチャー
機種 : DS



��この世は金と知恵~
皆さん最近どうですか?儲かってますか?「この世は金と知恵」「金は命より重い」なんて言葉が跋扈するこの世の中で生き残るにはとにもかくにも金なわけです。ではそんな金を設けるためにはどうするか?真面目に働きますか?それもまた一つの手でしょう。しかし私たちは知恵あるもの。こいつで儲けちゃいましょう……。そう、「株」でガッポリガッポリ一獲千金を狙うわけです。
しかしまー株というのはハッキリ言ってよく分からないものです。何しろ用語が分からない。次にシステムも分からない。最後にどうすれば稼げるかが分からない。ストップ高?損切り?PEA?TOPIX?押し目買い?な、なにが何やら……。ファルシのルシ以上に難解な言葉の羅列じゃあ知能指数25の自分には厳しすぎる。システムも分からん。どうやって買ってどうやって売るのが正解なのか?空気が読めない自分なんかに株が出来るものなのか…?
こういうときに頼りになるのがゲーム。やはりゲーマーなら、株の知識もゲームから仕入れたいところ。しかし次なる問題は株のゲームはどれもこれも楽しそうに見えないこと。俺は株教材がやりたいんじゃねえ!ゲームがやりたいんだ!なんだったら株なんてどうでもいいんだ!(本末転倒じゃねえか
そんな中一つだけ他とは違う覇気を放っているゲームを発見。発売「カプコン」、開発「インティ・クリエイツ」というゲーマーならその名を知ってる夢コンビが作りだした「株トレーダー瞬」である。パッケージ裏に堂々と書かれた「株ドラマ」「ドラマティックトレード」という衝撃の文字からして、他のゲームとは一味も二味も違う何かを感じる。妙な気迫というか、なんというか。果たしてこのゲームの深淵には何が潜んでいるのか……

��風説の流布?そんなことより!~
ゲームとしてはアドベンチャーパートと株パートを組み合わせたある種異質のアドベンチャーゲームになっている。チュートリアルがしっかりしていたり用語解説が細かく挿入されるのでので株知識が皆無からでも理解が進む辺りは流石の作り。アドベンチャーパートはどこまで行ってもアドベンチャーなので株パートの方を解説しよう。今作は株を題材にしたゲームでありトレードシステムが搭載されている。早い話チャートの動きを見て流れを掴み(物凄くざっくり言うと安いときに買い高いときに売る)金を稼ぎましょう、というものだ。株と聞くとどうも地味でよく分からないものを連想してしまいがちだが、かなりゲーム向けにアレンジを施し戦略力と考察力、瞬時の判断が求められるゲームとして面白いものになっている。DSの中でもタッチペンを上手く使っているのもポイント高い。しかし、今作にはそんな印象を霞ませる衝撃的な要素が搭載されていた……。そう必殺技である。トレーディングアーツ(以下TA)という名前のそれは株の戦況をがらりと変えるものである。例えば、TA「買い煽り」を使ってみるとあら不思議。画面内に「これは買いだ!」「買い!」「BUY!」などの文字で埋め尽くされ工作を行う描写がされた後、株価が上がってるじゃないですか。へーお得だねえ……ってこれはどう見ても風説の流布じゃねえかー!!滅茶苦茶だ!今作はこのように衝撃的な風説の流布もどきのTAを初めとして数多のTAが用意されている。インサイダーまでもが飛び出しもう何でもあり。株とは一体……
今作はトレードの種類が多いことも特徴の一つ。一人で気ままにトレードするソロトレードから始まり、買いだけのトレード、空売りだけのトレード、相手と対決するバーサストレードなどがある。株バトルとも言えるバーサストレードは期間内に金を多く儲けろ!だの、8連発で利益確定しろ!だの、相手の心を折れ!だの普通の条件からイカレた条件でトレードするというとんでもないものである。相手の心を折るには儲けた金額でショックを与えるとか、TAを使って心理的ショックを与えるなどがある。もうハッキリ言って滅茶苦茶すぎ。しかしこれだけ多種多様のトレードが存在しているのでトレードが全く飽きないという侮れない側面も兼ね備えている。そしてこのバーサストレードを軸に株ドラマが展開されていくわけだが……

��株ドラマ、その中身とは……~
今作の代名詞「株ドラマ」について説明していこう。今作の物語は伝説の相場師と言われるほどの男、相場一平が何らかの理由で失踪、そしてその一人息子の相場瞬が、父が人生をかけた株に魅せられ株の世界へ……といった具合のものだ。といっても、こればかりは実際に見ていただいた方がそのノリが分かりやすいだろう。そこでオープニングを見て行こう。

一平:馬鹿な……
この俺がここまで一方的に相場を読み違えるとは……
��??:そう悲観することもないでしょう。
私を相手にしてここまで
戦えた人間は貴方が初めてです。
一平:信じられん……
資金量の差とか、
そんなレベルの話ではない。
全ての相場が
必ずお前の望んだ方向へ動く。
お前はいったい何なんだ?
��??:そんな話どうでもいいでしょう。
それより覚えてますよね?
この戦いに負けたものは、
二度とトレードを行わない。
貴方から言い出したルールですよ。
しかも、私に勝つために随分無理な
信用買いを重ねたとか。
その負債は数十億。
相場の魔術師と言われた貴方も
これで終わりですね。
だが、貴方が生き残る道が
たった1つあります。
この私の手下となり、
相場を操るのに協力する。
それが出来るなら今回の負けを許し
負債を肩代わりしてあげましょう。
一平:……手下だと?
��??:ええ、貴方の株界での名声を
利用したいのです。
何せ貴方が買った売ったの情報だけで
株価が乱高下するほどですからね。
その名声を活かせば相場を操るのも
容易い。
貴方の名声と私の資金があわされば
株に関わるものすべての生殺与奪権を
得たも同然です。
どうです?
胸が躍りませんか?
一平:俺は……俺は、株だけは裏切れない。
相場は誰のものでもない。
結果の決められた相場に
何の意味がある?
��??:くだらない。
なら貴方は破産ですよ?
そんなに自分のプライドが大事ですか?
一平:プライドではない。
俺は、人生の全てを株にささげてきた。
だから、株だけは裏切りたくないんだ。
��??:……愚かな。
どこまでも愚かな、
本気ですか?
一平:……
��??:貴方には失望しました。
ならば今日限りで株をやめ
返せない負債を抱えて
一生震えながら生きなさい。
貴方にはそんな人生がお似合いだ。
一平:すまない、奈良崎……
すまない、瞬……
瞬……

……どうだろう。他の株ゲーとは一味も二味も違うどころか、全く異質の何かを感じないだろうか。カッコよさ2割、気恥ずかしさ2割、狂ってる感6割の衝撃のオープニングだ。つーか株で対決って。株ってそんなものだったのか!?生殺与奪権だとか人生の全てを株に捧げてきたとか「ホントかよ!?」と突っ込みたくなるような言動がいともアッサリと表現されている。なんだかヤバいぞこのゲーム。
しかしこちらのツッコミに構うことなくストーリーは進んでいく。初め、主人公瞬は一平の弟子である奈良崎さんに弟子入りし株を学んでいくことになる。おおー分かりやすい。なんだ、オープニングはちょっとはっちゃけちゃっただけでゲームはちゃんとしてるじゃないか、と思ったのもつかの間、ヒロインである桐神楽さんが登場しバーサストレードで勝負よ!と言ってくる。ば、バーサストレード?なんだそれは!?数多くルールで一対一で勝負、賭けるものはプライド、金、今後の人生まで何でもあり、ってもうそれ株じゃねー!!そしてこのバーサストレードを主軸にし、数々の株トレーダーとの戦いを経てやがて株界に潜むインサイダーや詐欺、巨悪を垣間見ることになる……といったものだ。まともに考えるとツッコミどころだらけの物語である。
バーサストレードで戦うキャラクターもとんでもない人物ばかりだ。どう見ても詐欺としか思えない行為を平然とやってのける山笛から始まり学生ながら全国のトレード大会を総なめにする蛭田、元格闘家でありながら精神の勝負を求めてトレーダーに変更した立花、果ては世の中全て波であり未来が見えると豪語する男まで現れる。主要キャラの個性の強さもさることながら、真に恐ろしいのはモブキャラ。年金全てを株に注ぎ込んでいると豪語するご年配から始まり、八百屋の仕事を放り投げ挙句の果てには手をつけてはいけない金にまで手をつけ株をするおっちゃん、騙されカモにされたことを知ると目を血走らせて「ぶ、ぶっ殺す!死んでも殺す!」という衝撃的な台詞を吐くサラリーマンなど個性がある…を通り越した個性の塊のような何かがわんさか出てくる。キャラに出会う度に「なんだよこいつ!」「どういうことだよ!」とツッコミが止まらない。
とどのつまり今作はバカゲーだ。それも登場人物から話の流れ、制作者まで含めて真剣そのものなのに笑いが発生するという正真正銘のバカゲーだったのだ!

��馬鹿なだけじゃない!これが株ドラマだ!~
今作は狂気的なノリが混在しているゲームだったわけだが、いつしかプレイヤーまでもその狂気的なノリが漂う世界に溶け込ませるほどの力を持っている。それどころか登場人物に惹かれていき自らも株の深みへとハマっていくだけの魅力が確かにある。実際今作をプレイしたプレイヤーの多くは株トレーダー瞬を単なるバカゲーと見てる人は少ない。むしろ株をエンタテイメントとして表現したたぐいまれなる作品と思っている人も多いだろう。初めは半笑いで「株ドラマってなんだよw」だの「これはどう考えても違法じゃねーかw」と言っていた自分もプレイ中盤では「株には命が宿ってる」だのなんだの口走りながらトレードに走る始末。一体株トレーダー瞬の何がそこまでプレイヤーを陶酔させるのか?
それは登場人物全員が株にどんな形であろうと真剣に向き合っているところにあると思う。上でネタにした通り出てくるやつらはどいつもこいつもろくでもない。しかし誰もが株に向き合い目を血走らせている。誰もが株に命を懸けている。それだからこそ、真面目に考えれば色々とおかしいところすら燃える展開や演出に昇華されている。狂気的なノリと書いているが、いわばそれほど登場人物は真剣なのだ。だからこそ誰もが魅力的で誰もが異様な存在感を持ち誰もがカッコよく見える。単なるモブキャラ、それにゲーム後半では市場を去ることになったキャラクターですらこうまで記憶に残るゲームなんて極僅かしかない。
ゲーム中盤で主人公瞬は突如として脈絡もなくウェイトレスに向かって「それにしても株って凄いんだ。あれは人の感情の集合体だよ。欲望で上がり、恐怖で下がる」「株は確かにギャンブルの側面もあるけど、自分がどんな人間かを知りたかったら、株をやるのも手だと思うよ」とアツく語りだすシーンがある。普通に見たら「こいつ何言ってるんだw」の一言で終わってしまうが、今作のノリにハマってしまうとその言葉すら何かカッコいいものに思えてしまう。世の中には単なるバカゲーや狙ったバカゲーは多いが、こういった真剣に作られているがゆえにバカに見え、そのバカなまっすぐさに惹かれて自分自身もゲームに陶酔させるようなゲームは意外と少ない。これこそが株ドラマの神髄である。
そしてこの陶酔に上手いこと作用しているのが先に挙げたトレードシステム。ただ単に儲けるだけではなく己のプライドや人生をかけて株で戦うとかwなんてことは口が裂けても言えない。言えるわけないじゃないか!こうまで登場人物たちの純粋性や真剣性を見せられてはトレードの方もいつしかどうやって勝つか、トレーディングアーツをどう使うか、などと真剣に考え、負けた時には何故負けたのかを真剣に考えさせるほどの力を株トレーダー瞬は持っている。シナリオで対決することになるトレーダーはおかしいやつらばっかりだがハッキリ言ってめちゃ強い。だからこそマジの真剣勝負になりそこに数々のドラマが生まれている。ドラマティックトレードとはまさにこの真剣勝負のことを指していたのだ。そしてこうまで没頭させるほど戦略性とやり込み性のあるシステムを作り上げたインティ・クリエイツにはもう脱帽ものである。風説の流布なんてどうだってよくいつしか真顔で買い煽りを行っている自分がいることに気が付くだろう……
メインシナリオを追うだけなら株トレーダー瞬はそこまで重厚な物語ではない(10時間ほどでクリアできるから)。しかし数々のトレーダーとの戦いやサブイベント、周回プレイや銘柄コンプリートなどのやり込み要素にも目を向けることでいつしか他にない魅力を持った濃密な物語へと姿を変えている。無論メインシナリオもドラマ性溢れるプレイヤーを惹き込む素晴らしいものだ。優れた演出を支えるシリアスな音楽もまた質の高いものである。一度で遊びつくせるものでなく何度も遊ぶことが出来るアドベンチャーへと進化を遂げたその手法は、埋もれさせるにはあまりにももったいない。バ株ゲーとしての破壊力に酔いしれるのも、質の良い戦略系ゲームを楽しむのもどちらも楽しい、一粒で2度おいしい油断ならないゲームである。「自分がどんな人間かを知りたかったら株トレーダー瞬をやるのも手だと思うよ」と心から思う。興味を持った方は是非とも一度触れてみてほしい。



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